
夢のカルテ (角川文庫) -
主人公・来生夢衣は心理カウンセラーですが、特殊能力を持っています。
何と、他人の夢の中に入っていけるのであります!
クライエントを催眠誘導で眠らせた後、自己催眠で自分も眠り、クライエントの夢の中に入って心理的問題の原因を探ることができるのです。
こんなことが可能になれば、カウンセリングが効率的に進みますね。
本書には、4つの事件が収録されています。
第一話で夢衣は、麻生健介刑事のカウンセリングを行います。
そこで親密になった麻生刑事とのつながりから、3つの事件に巻き込まれていくのであります。
物語は、夢衣が出会う4つの事件を中心に、夢衣と麻生刑事との関係・夢衣や麻生刑事の過去の問題などが縦糸となって紡がれています。
事件の真相も面白いのですが、クライエントが見る夢を解釈していく過程が面白いです。
支離滅裂で意味の分からない夢の断片の意味が分かっていくのはカタルシスです。
実際のカウンセリングや夢分析もこんな風に行われているのでしょうか。
第4話は、夢衣の記憶にない父親の過去や、麻生刑事の忘れていた過去の問題に夢衣と麻生刑事の関係の進展など、クライマックスにふさわしい急展開でした。
これで、全て解決されたのでしょうか?
まだ何か残っているような気がしますが。
非常に映像向きのテーマであるし、実際に映像的な物語です。
ドラマ化されなかったのでしょうか?
今後も続編は出ないのでしょうか?
タイトルが地味だと思います。
「ドリームカウンセラー夢衣の事件簿」シリーズ、というのはどうでしょうか?
(どうせ私の言うことだから、聞き流して下さい。)
第4話では、夢衣の父親は、会社の不正の責任を負わされて逮捕されたことが示唆されます。
そのことが、第4話で扱う事件と相似形を持っているのです。
事件に深入りした夢衣が、暴力団の殺し屋チームに捕まって処刑されそうになります。
物語では当然、間一髪で救助されるのですが、現実の社会では、このような幸運が起こるとは限りません。
現実の社会では、悪の組織によって善人が人知れず闇に葬られることも多いのでしょうね。
特に、民主主義体制が崩壊に向かい軍事独裁制に向かいつつある現代日本では、今後そのようなことが増えていくのではないかと、寂しいことをふと思いました。何を読んでも暗い予想に結び付くマイナス思考の私です。
本書では、大矢博子という方が巻末に解説を書かれています。
エンタメ系の文庫本の解説というのは、解説というより筆者の身辺雑記やエッセイのようなのも多く、脱力させられることも多いのですが、本書の解説はなかなか読ませました。
本作品の「解説」が手際よくされた上で、著者・高野和明の他の作品について端的に「解説」されていて、他の作品にも興味を持たされました。
文庫本の解説はこんな風に書いてほしい、という一つのお手本・型だと思います。
大矢博子さんは書評家のようです。
なまもの!大矢博子の天上天下唯我読書ん
http://www.namamono.com/
私は、豊崎由美さんの『ニッポンの書評』を読んでから、“書評”という言葉を軽々しく使えなくなりました。
■[日々の冒険]今後軽々しく“書評”を書けなくなる本
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20110820/p1
今は素人でも“書評ブログ”なんて軽々しく言ってますが、そもそも“書評”とは、そんな軽々しく書けるものではありませんぞ、と。
そんな意味で、本書の解説は、“書評”というにふさわしいものだと思います。
(どうせ私の言うことだから、聞き流して下さい。)
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